SEED SAGA LINKAGE PHASE-01-4

 

 
カガリ様とは、どういう人なのだ?」
 お茶が終わった後、ラクス様は後片付けをしにキッチンへ、マルキオ導師は書斎へ向かわれた。俺とキラはというと、子供達から少し離れた場所で紙の鎖や花を作っている。(子供達はなにやら大きな紙に絵や文字を描いている)なんでもパーティの飾り付けに使うそうだ。(こういうことはあまりやったことがなかったのだが、意外と面白い)手を黙々と動かしている矢先の俺の質問に、キラは初め何を聞かれたのか分かれなかったようだが、分かると今度は何故そのような質問をという疑問が浮んだようだ。
「……イザークさん、カガリとあったことありますよね?」
「ああ。2度だけな。もっともその内の1回は通信回線でだが」
「初対面からケンカしてましたよね」
「ああ。いきなり赤いストライクのコクピットから足を滑らせて落ちてきたからな」
 
 思えば衝撃的な出会いだった。
 いきなり上から人が降ってきたんだからな。咄嗟によけて受け止めなかったら、どちらかは確実に怪我をしていた。
 にもかかわらずだ、俺が『危険だから注意しろ、ナチュラルなどひとたまりも無い』、と言っただけなのに、『礼はいう。だがここは無重力だから大怪我はしなかったと思うぞ』とは何だ!?ゆっくりでも落ちたら危ないに決まっているだろうが!
 そのまま口論に突入してケンカ別れしたことを覚えている。まさか、アレがオーブの姫君だとは普通思わないだろう。
  
カガリはその時、戦闘で自分を助けてくれた人だとは知らなかったらしいですね。そのお礼は言われたんですか?」
「ああ……エターナルを離れる前にな」
  
 あれは確か、エターナルを離れる直前、デュエルに乗り込んだ時だ。
 コクピットを閉じようとした瞬間、カガリが横から顔を突っ込んできた。
 結局、初対面の時の気まずさで、短い滞在期間にほとんど話をすることはなかった。アスランと別れの挨拶するときに、ディアッカとまとめて挨拶をされたくらいだ。それで終わると思っていたのに、いきなり最後に顔を見せるのだからな。
 俺は再び『危険です』と怒った。一瞬キョトンとした後、『また怒っている』だの『敬語はおかしい』だのと笑い出した。
 馬鹿にされたのかと思い不機嫌になっていると、カガリはお構い無しに俺の方へ小さな包みを放り投げてきた。それはオーブの砂糖菓子で、こっそり持ってきたものだという。俺が何故そのようなものを渡されたのか分からずにいると、カガリ曰く『モビルスーツの操縦は疲れる。私はこの間それでフラッとした。だからお前も糖分を取って疲れを取れ』という理由の差し入れなのだそうだ。
 俺が簡単な礼を言いながらも、コクピットを閉めると合図するとカガリは離れていった。そして閉まる直前に「助けてくれてありがとう。これで私はまた進むことができる」と声をかけて去っていった。
 それがさりげなく、そうあまりにもさりげなかったから、彼女に対してとても強いイメージが浮んだのだ。
 ちなみに2度目の出会いは、それからしばらく経った後だ。ディアッカが通信機で話していた時だ。ディアッカが(勤務中であるにも関わらず)ミリアリアとかいう女についての泣き言を延々と話している所に、丁度通りがかった俺が気づき、さっさと持ち場に帰れと追い払ったのだ。
 ディアッカの代わりに回線を切ろうとした時、相手がアスランであることを知った俺は、ついでに何時までもオーブでグダグダせずにこちらへ帰ってこいと叱咤しようとした。その時アスランの後ろからカガリが現れたのだ。
 つい『様』をつけて敬語で話してしまう俺を、よそよそしいと怒りながらも、元気そうだなと笑っていた。
 私はまた仕事だと、手に抱えている大量の書類を見ながら溜息をつき、最後にポツリと『逃げようかな』という言葉を呟いた。それを俺もアスランも聞き逃すはずはなく、ハモって『逃げるな!』と怒鳴り、注意を二人してくどくどとしてしまった。
 カガリはうんざりそうな顔をして、『なんでこんな時まで仲がいいんだよ』や『ステレオでうるさい』と俺には非常に不本意な台詞を発した後、舌を出しながら去っていった。怒った俺が教育がなっていないと注意を始めると、急用を思い出したなどという見え透いた理由でアスランの奴は回線を切りやがった!
 その後、実は一部始終を全部見ていたディアッカにからかわれたので、逆に扱き使ってやった。八つ当たりも入っていたが、盗み聞きの罰だ。
 
「……あれは姫君ではないな」
 今までの出会いを思い出して、俺はそう思った。姫という生き物は、深窓で優雅にお茶でも飲みながら護られているものだ。彼女は不思議な魅力はあるものの、護られるような存在ではない。
「アハハハ。あれでも泣き虫だったんですよ。一応礼儀作法も完璧だし」
「どちらも想像できん」
「まあ……最近は、全然辛い顔も見せてくれないし。基本的に部屋にいることが嫌いだかし」
 辛い顔を見せないことは仕方がない。心配を掛けたくないという彼女なりの配慮だろう。キラもそれが分かっているらしく、少しさびしそうな顔をしている。
 ……しかし、だ。政治家なのに部屋にいることが嫌いでどうするんだ!?
「……たびたび脱走したりしているのではないだろうな」
 俺がボソリと聞くと、キラはキョトンとした表情になった。
「なんで知っているんですか?」
 おい。家族公認か!?アスランの奴、よく禿げなかったな。
「前は、お忍びで街に行ったりしてたみたいだけど、代表になってからはあちこちの森でハイキングっていうのがマイブームみたいですよ」
 急ぎの仕事がないときみたいですけど、と付足しでフォローしているが、それでも仕事場の人間にとっては堪ったものではないだろう。俺なら殴りたくなるに違いない。
「よくこの島にも遊びに来てて…………あ」
「?なんだ」
イザークさん、民俗学とかが好きだって、アスランから聞いたんですけど本当ですか」
 ……何だ?いきなり俺の趣味の話が出てきたぞ。(しかしアスランの奴、余計なことまで話しているな)
「まぁ、そうだが」
 疑問に思いながらもうなずいてやると「キラはちょっと待っててくださいね」と部屋を出て行った。
 訳が分からない俺は仕方なく作業の続きを始めた。
 
 コーディネーターには文化という概念が薄い。作られたものだという意識があるからなのか、古いものを壊して新しいものを作るということが一般的だ。だが、ナチュラルには古くからの伝統を守り続けているものも多い。
 民俗学を始めたきっかけは、他の奴と違う観点から対ナチュラル用の教養を身につけようとしたことだ。しかし、民族の数・地域の数だけ異なってくる文化というものは興味深く、俺達の祖先も昔、同じことをしていたのだと思うと面白くもあり懐かしくもあった。
 そして何より発想の素晴らしさ。海や山などプラントではただの生命活動のための装置の一つにすぎないのが、地球では神であったり精霊が住んでいたりするのだ。違うものでありながら、自分達の隣人として扱い、時には自らの命よりも大切なものとして敬う。そうして恵をもらい、獲すぎないように自らを戒め、人々は助け合い、日々過ごしていく。
 俺達には遠い世界だ。飢えることも寒さに震えることも多いはずなのだ。だが、何故だろう。羨ましいとすら感じる。そんな魅力がある学問だ。
 いつのまにか俺は、暇さえあればその手の本を読むほど、どっぷりと民俗学に浸かってしまった。おかげで部屋が書庫になっている。
 
「おまたせしました」
 キラが紙のようなものを持って戻ってきた。
「何だ、それは」
「これは、この島の地図です」
 キラは机の上にあった飾りを端に寄せながら、少し古い、大きな紙を広げた。そこには、島の地図が描かれており、上に『アカツキ島』と表記されている。
 その上の一点、海辺の側をキラが指差した。
「えーと、ここが僕たちの今いる場所です。で、ここを歩いていくと」
 指は裏手の森に入り、描かれている細い道をなぞっていき、とある一点で止まった。そこには、小さな手書きのマークがついている。
「僕は行ったことがないけれど、ここに小さな祠があるらしいんです。カガリが見つけたんですけど、なんでも昔の原住民族のものみたいだとか。多分、祭礼場に関係があるんじゃないかって言ってました」
 マークから少しはなれた場所に、『祭礼場』と書かれたマークがついている。これが今、カガリ様が何かの行事をしている遺跡だな。距離的には近いが、かなりの高低差がある場所がある。崖でもあるようだ。
「折角この島に遊びに来たんだし、行ってみたらどうですか?」
 なんだか考古学と民俗学を一まとめだと思っている発言だが、隣接学問の観点で考えると興味深い。今やっている儀式は一般公開していなさそうだし、これだけ離れていれば邪魔をすることはないだろう。
 だが、この飾り作りはどうするんだ?
「ここは僕だけでも大丈夫ですよ。それにほら、こんなにたくさんできたし」
 ふと、キラが示す方向をみると、大量の花飾りやら鎖やらが転がっていた。いつのまにこんなに作っていたんだ、俺は。
 飾り作りはなかなか面白かった。だが、やはり遺跡の魅力には勝てない。
「そうだな……行ってみるか」
 

 

[to be continue...]