SEED SAGA LINKAGE PHASE-01-9

  
  
 カガリは通路の行き止まり、一つの扉の前で立ち止まっていた。ここへ来る途中、いくつも通り過ぎた、無機質な扉だ。ただ一箇所、カガリの目線の先に、何かをえぐって取り外したような後がある限りは。その前でじっとしているカガリに、俺は声をかけた。
「おい、どうした」
「……ここに、こなければならない気がしたんだ」
 カガリはボソッと話しながら、じっと扉を見て、扉の傷に触れている。
「ここにか?」
 俺もじっと扉を見る。傷以外は自動ドアですらない、簡素な扉だ。ここ何年も、開けられたことがないことが分かるくらい、ノブはさびている。
「ああ……違うな、うん、違う。『こなければ』じゃない、『戻らなければ』だ」
 まるで俺がいないかのように、独りでぶつぶつと言っている。
「なんで……そう思うんだろう。この中に、何があるんだろう……」
 カガリはドアノブに手を移すが、触れた瞬間、手を離した。
「どうした?」
「……」
 カガリは黙ったままだ。
「俺が、入ってやろうか」
「……」
 カガリは黙って首を振った。もう一度、ドアノブに手を伸ばすが、触れる寸前で固まってしまう。だが、しばらくじっとした後、意を決したのか、ノブを握って扉を開いた。
 ぎいぃぃぃぃ。
 錆びた扉の音がした後、俺たちは暗い部屋の中へと入った。
  
 部屋に入った瞬間、カガリは壁に迷わず手を伸ばした。すると、部屋の明かりがついた。そして分かったことは、、ここが誰かの部屋だということだ。何年も使われていないのか、床にホコリの層ができているが。デスクやベット等、家具に白い布がかかっている。ホコリがかからないように、ということだろう。それ以外、何もない部屋だった。服も、本も、普段使うはずの食器すらない、何もない部屋だ。
「お前、こんなところで何をする気だ」
 カガリは俺の問いには答えず、ただ、まっすぐデスクに向かう。布をはがし、デスクの上から二番目の引き出しを開けた。俺は側によって中身をのぞいた。中には何もない。カガリは、しばらくじっとしていたが、何かを思い出したように、引出しを引き抜き、ひっくり返した。
「……ここに何かを隠した気がする」
「来た事ないのにか」
「ああ。来た事ないはずなのに。でも、この裏に隠した気がするんだ」
「でも、何もないぞ」
 引出しの裏には何も無かった。カガリはじっとしていた後、おもむろに引き出しの裏を叩き割った。パキ、という音と共に割れ目の間から何か紙のようなものが見える。カガリは、おそるおそるそれに手を伸ばした。まず白い面が見える。そこには何も書かれていない。カガリは震える手でそれをひっくり返した。そしてそれを見た瞬間、固まった。
「……?何だ?」
 俺は動かないカガリの横から、それを覗き込んだ。
 それは一枚の写真だった。カラーが主流のこの時代に、わざわざモノクロで撮っている。何人もの体つきの良い男たちが並んで写っていた。格好からして軍人のようだが、硬いイメージではない。ビールの瓶片手に鼻歌でも歌ってるかのような様子や、酔っ払って抱き付き合ったあり、それを見て笑ったりしている。そして、違和感を『感じなければならない』はずのものが移っている。
 それは子供だった。十歳前後だろうか。短い髪のせいで性別は分からない。周りの男たちと同じように軍服を着て、真ん中の最前列に座っている。周りはいい大人たちばかりで、子供が一人だけ座っている、というのは異常な光景だ。だが、この写真ではそれが『当たり前』のように感じた。周りの連中も、特別はしゃいだ光景ではなく、それが普通であるかのような表情をしている。子供は笑っていた。まるで、皆を暖かく『見守るような』表情で。見守られる側の子供が。
 ……そして、その子供は何処となく、知っている顔のような気がした。
 俺は、その顔を持つ隣の人間を見た。そして仰天した。カガリは、顔中から油汗をかいていた。真っ青になりながら体中を震わせ、荒い息を繰り返す、という様子だ。
「お、おいっ!大丈夫か!?」
 俺はカガリの肩に手をかけた。その瞬間、カガリの体からふっ、と力が抜けた。
「……して……うさま」
 そう呟いた後、意識を失った。
「おい!おいっ!!」
 俺は何度も体を揺らすが、カガリは一向に起きる気配がない。これはマズイ。何か発作でも起こしたのかもしれない。ここでは俺の応急処置くらいしかできないぞ。俺はカガリを担いだ後、部屋を飛び出した。そのとき、カガリの手から写真が落ちたなど、気づかないまま。
  
  
[to be continue...]