SEED SAGA LINKAGE PHASE-01-2

 
 
「……キラ・ヤマト。先ほど言っていた野暮用とはなんだ」
 俺は、マルキオ導師所有のクルーザーを運転するキラに、ボソリと聞いた。
「ーーーえー、なんですかー何か言いましたかーー?」
 しかし前方で運転に集中しているキラには、聞き取れなかったらしい。仕方なく、大きな声で叫ぶことにする。
カガリ様は一体何をなされに島にいらっしゃるのだ!」
「あー、何でも祭礼場の方に用があるらしいですよー」
 祭礼場?と、一瞬何か分からなかったが、思い当たる節がある。たしか、マルキオ導師が教えの伝道の為に使われていた、遺跡だったな。
「なんかー、儀式みたいなことをするみたいですけどー、どちらかと言えばカガリよりーマーナさんのほうがー張り切っていた気がしますーところでイザークさんー、様をつけると怒られますよー」
 波の音にかき消されまいと、大声で話かけてくるキラを尻目に俺は思考の中へと入っていく。今日中にカガリに渡すことができるのだろうか。……いや、やはり明日か明後日に渡すほうがいいのだろう。ふと、鞄の中に入っている小箱の、本当の持ち主を頭に思い浮かべる。
(あの腰抜け、自分で渡せばよいものを!)
 何故自分が、二人のこじれた仲を取り持たなければならないのか。箱を渡した青い頭の男に悪態をつく。
 
 アスラン・ザラは現在プラントにいる。一時はザフト軍法会議にかけられたのだがラクス様の口ぞえがあったお陰か降格で済み、今は一線を退いて本国の整備班に回っている。(心なしかパイロットをやっていた時よりも楽しそうなのが癪にさわるが)それは今回の世界規模の騒動が、おかしな指導者が引き起こし、自分達がそれに賛同してしまったせいで起こってしまったことが関係しているのだろう。
 脱走ともいえる行動は、後でデュランダル前議長の謀略だったという証拠がいくつも出てきたことで、お咎め無しになったともいえるだろう。だが、本人の希望通りの退役になることはなかった。すまないと思うのなら働いて返せ、という軍の言い分だが、本音のところでは監視するために議会が身動きを封じたというところか。結果的に地球を守ったと言ってもいい男を処刑する訳にもいかず、かといって自由にするには危険すぎるのだろう。さすがに今回はオーブ政府も助けようとは思わなかったようだ。(最後にはオーブ軍についたからといって、恩義あるオーブに戦闘をしかけたことは帳消しにはできないだろう。処刑ではなく国外追放で済んで良かったくらいだ)様々な経緯から、アスランがオーブに入ることはおろか、プラントを出ることすら難しい状況だ。
 同じく最後にはザフトを裏切ったといってもいい行動を取った俺は、ジュール隊を解散されたものの降格にはいたらず、現在は再編待ち(おそらく当たり障りのない場所の警備などに左遷)の長期休暇という名の謹慎だ。先日まで、戦後復興に借り出されていたのだが、一応の目処はついたのだろう、いきなり辞令がきたのだ。(それでも戦争終了から4ヶ月、よく待ってくれたものだ。よほど人手が足りなかったのだろうか。降格しなかったのは、やはり母の影響だろう。余計な手出しはするなと言っているのだが、今回も裏から手を回したのだろう。行動の割には罰が小さすぎる。しかし、母を責めることなどできない。お互い母1人子1人であの『ジュール家』の中を生きてきたのだ。お互いに甘くなるのは当然ともいえるだろう)
 しかしあのデコ男、何処から聞き出したのか(おそらくディアッカ辺りだろうが)俺が休暇中だと聞くやいなや、「オーブに行ってくれ」と言い出した。何でもキチンと話ができなかったせいでカガリが心配しているとラクス様から聞いたので、せめて無事だという証拠にクリスマスプレゼントを渡したい、というふざけた理由だ。戦争が終了したとはいえまだ4ヶ月、未だプラントとオーブの仲は険悪だ。行ける訳がないだろう!と言ったら、次の日、ディアッカから「いきなりオーブへの出張者の1人に病欠が出た」という連絡があった。ディアッカ曰く、「出張者は友達で、激励に宴会をやっていたら食中毒で倒れた」らしいが、大方アスランに頼まれたディアッカが、一服でも盛ったのだろう。なんて奴らだ。無理やり、その出張者の一員に放り込まれた俺は、首長の1人が主催の明日開かれるクリスマスパーティにザフトからの使者の1人として出席する羽目になったのだ。(これにはアスハの代表であるカガリも出席することになっている)まあ、今回はラクス様と1日早いクリスマスを祝えるというオマケをもらったので、渋々OKしてやったのだが。
 
イザークさーん、ほら、見えてきましたよー」
 ふと、キラの声で現実に引きもどされる。前方にはたしかにアカツキ島が見える。しかし……あの豪華な船はなんだ?このクルーザーが普段止まっている船着場に、比較的大きな帆船が1隻止まっている。ざっと見て50人は乗れそうだ。近づけば近づくほど、外装が見たこともないほど美しいと分かる。真珠のように淡く光る色、所々にちりばめられた宝石と細工。そして、船頭にある見事なまでの女神の彫刻。船着場についても、船から下りることを忘れ見ほれている俺に船を止めたキラが近づいてきた。
「これ、見たことあります。たしか鎮護国家の祭典の時、神官や巫女の人達が乗っていたものですよ」
「確か……オーブ建国時から行われてきたものだな」
 オーブという国の成り立ちは複雑だ。再構築戦争において、日本国という国が事実上消滅したことが始まりと言ってもいいだろう。その後まもなく親日的であったハワイ諸島津波で海に飲まれ、2国間から何千万人という難民が発生した。どのような経緯があったのか詳しい情報は未だ発表されてはいないが、マーシャル諸島がこれを受け入れた。これが、オーブという国だ。未だ200年ほどしかない複合民族国家の人々が、共通の文化として国の安定を求める祭典を欲するのも分かる気はする。
「この船は最初の祭典からずっと使われているとパンフレットで見た記憶があります。その船がなんで……あ、そうか。確か、アスハも神官の家だ。カガリは家を継いでから巫女の仕事もしていたから、今日の野暮用って祭礼行事なのかな」
「そうなのか」
 あのじゃじゃ馬が巫女。想像がつかない。
「結構似合ってたんだけどな、巫女姿」
 俺が半信半疑になっていることを察知したのか、そう呟きながら、キラは俺の荷物を持ってマルキオ導師の家へと向かった。
 
 
[to be continue...]