SEED SAGA LINKAGE PHASE-01-6

  
  
  
  
 胸部と腹部に衝撃があった後、ドサッ、という物音と共に俺の背中と腰と頭部に強烈な痛みが走った。つまり俺は上から降ってきたモノに押し倒された挙句、後ろを強かに打ったのだ。その原因は俺の額に当たったのか、頭を抑えて倒れている俺の上に乗り上げながら、顔をしかめつつ顎をしきりにさすっていた。
「ッター。何でお前よけないんだよ。コーディネーターだろ」
 ……自分が上から落ちてきながら、なんとも理不尽な言い分である。(確かに、あれくらいをよけられなかった自分も不甲斐ないとは思うのだが)この、薄い白の上着に緑のスカートのドレス(おそらく巫女が着る服)という姿で、俺の腹をもう一度踏みつつ立ち上がる人物こそ、カガリ・ユラ・アスハなのだ。俺は涙が浮かぶのを感じつつ、再び痛み出した腹を抑えて、カガリ様を睨み付けた。
「いきなりぶつか……」
 怒鳴りつけようとした瞬間、左手で口をふさがれた。
「シッ」
 カガリ様は口に人差し指を当てた。耳を澄ますと、遠くから小さな声が聞こえてくる。
「あっ……ほう……音が聞こえ……」
「探……みよ……」
 何かを探している様子だ。これは目の前の人物が原因ではないのか。
「……カガリ様、貴方、何したんですか?」
 俺は痛みをこらえつつ、小声で聞いた。ついでに、立ち上がりながら睨み付ける。すると、何が気に食わなかったのか逆に金の目で睨み返された。
「様をつけるな、余所余所しい。逃げただけだ」
「……はあ?」
 訳が分からない。そうしているうちに、人の声が徐々に近づいてきていた。
「ヤバッ、こっちだ」
 カガリ様は俺の手を引っ張ると、祠の向こう、俺が来た方向とは逆に向かった。
「……あの、カガリ様」
「だから様をつけるな。で、何だ?」
「ここで何するんですか?」
「お前は馬鹿か?降りるに決まってるだろ」
「……ここを?」
 先ほど登ったのは急とはいえ60度の坂だった。今、足元に広がるのは90度の坂、いや崖だった。木の枝によって下は見えないが、かなり高そうだ。
「これは降りるじゃないだろ、落ちるだろ!」
 ついタメ口で突っ込む俺を無視して、
「グダグダ言うな、行くぞ」
カガリ様は俺の手をつかんだまま、飛び降りた。
  
「ーーーーーーーーーーーーーッ」
 ドプン、という音と共に俺の全身は冷たい液体に覆われた。何かに絡みつかれつつも、何とか顔を水面に上げる。そこは緑色の小さな沼だった。俺は空気を吸いつつ、腕を上げた。ヌルヌルの藻がビッチリとついている。この瞬間、明日は別のスーツを着ることが確定した。
「うへぇ……覚悟していたとはいえ、気持ちが悪いな」
 金色の頭を緑斑にしながら、カガリ様は上を見上げた。俺もつられて上を見る。木の枝のせいではっきりと見えない。声を殺してじっとしていると、しばらくして人の気配が感じられた。どうやら2人いるようだ。
「どうだ、見つかったか」
「何も。獣か何かだったんじゃないか」
「そうか。念のため、また船場のほうへ行って見よう」
「まったく、何処へ行かれたのか」
 足音が遠ざかっていく。気配が感じられなくなると、カガリ様は溜息をついた。
「はぁ〜〜〜〜っ。やっと行ったか。まったく迷惑な奴等だ」
 それはこっちの台詞だ。俺は沼から這い出ると、同じく這い出ようとするカガリ様に手を貸しつつ不満をぶつけることにした。
カガリ様」
「次、『様』をつけたらオーブ入国禁止人物に認定するぞ」
「……カガリさ……カガリ
 無茶苦茶な要求によるカガリ様改めカガリは、体中についている藻を払いながら、俺のほうを見た。
「何だ?」
「一体何をしたんですか」
 『何があった』ではなく『何をした』という台詞の意味が分かったのか、カガリはムッとした。
「私が悪いわけじゃないぞ」
「じゃあ何が悪いんですか。何が『俺を』こんな目にあわせているんですか」
「巻き込んだことはすまない。でもあいつらが悪いんだぞ。あいつらがいきなり」
 ちっともすまなさそうな顔をしながら、カガリは不機嫌そうに言った。
「結婚させようとするから」
  
  
  
 

[to be continue...]