SEED SAGA LINKAGE PHASE-01-7

  
 
「結婚!?」
 想像していなかった単語が口から発せられ、俺は驚いた。アスランが聞いたら心臓を止めるな。そんな俺をよそに、カガリは言葉を続ける。
「正式にはお見合いだ。明日のパーティがそれでな」
「……はぁ!?」
「お前、知らなかったのか?『仕事も国籍も全てオーブに移し、これからの人生をオーブへの忠誠に対して使うのであれば、どの国の者でも参加してよい』とかいうふざけた条件付で、あちこち宣伝しまくったらしいぞ。明日来る、プラントの使節団もその対象らしいじゃないか」
 ……知らなかった。アスランなっぜも知らなかったようだが……ディアッカは知っていたな。おかしいと思ってはいたんだ。あいつにしては強行な手段だからな。俺を送り込むついでに、花婿候補を一人減らしたということか。
「今日は『良い花婿が見つかりますように』とかいう、もっとふざけている呪いの儀式だ。マーナ曰く、『十六歳の時にできなかったから、変な結婚をしそうになったりするんだ』とからしいぞ、一応の言い分は」
 そこで、ふと、カガリは考え込むように口を止めた。一応、ということは何か他にあるということか?
「……思えばセイランのときもおかしかったんだ。あの時も、花婿候補は何人かいたらしいんだ。だが情勢が情勢だしな、『自分の全てを捨てて』私の元へ嫁げる人間はそう多くなかったし、首長会議の後押しもあったので、『オーブの象徴』として同じ首長家のセイランと婚約する羽目になった、と思っていたんだがな……」
「何か気になることがあるのか」
「今回のことは、どうやら私が『留学をしたい』、と言ったことが原因らしい」
 留学か。しばらく政治から離れるようだし、他国の情勢だけではなく知識まで学べるのであれば、それほど問題にもならないとは思うが。
「そのときには大きな反対はなかったんだ。だが、何故か私に内緒でこんな大掛かりなイベント開催だ。知ったのが、三日前だぞ?それくらい必死で隠す必要があるか?」
「逃げるからではないのか?」
 現に今まさに、逃げているではないか。俺があきれながらそういうと、キッと睨みつけてきた。
「馬鹿にするな!私が自分と国を天秤にかけるものか!必要なら結婚など何度でもしてやる!」
 驚いた。この気位の高さは何だ?俺でさえ、伴侶は自分で見つけると言って、婚約をしなかったぐらいだ。ましてや女は普通、結婚にあこがれるものではないのか?俺は、はじめてみるモノのように、カガリを見た。
「首長の連中だってそれくらい知っているはずだ。なのに何故、たかが留学くらいで結婚をしなくてはならないんだ。しかも選別の意図がまるでない相手と」
 確かに変だ。必要なら政略結婚をすると了承している人間に対して、誰でもいいから結婚しろ、ということは普通無い。むしろ、必要がくるまで結婚するな、というだろう。
「それが分からないのにお見合いなどできるものか!」
「だから逃げ出してきたのか」
「ああ。儀式で一人にされたとき、前に遺跡で見つけた抜け道を使ってな。あ、これから島を抜け出すんだけど、手伝ってくれるか?」
 手伝ってくれるか?という気楽な(ように聞こえた)声を聞いたとき、一瞬、ラクス様の顔と『腕によりをかけて料理する』という言葉が頭に浮かんだ。その瞬間、俺の中で何かが切れた。
「わざわざ俺の上に振ってきて」
「抜け道がちょうど祠の真上につながってるんだ。あ、下から見えなかっただろ。あれは抜け道を発見されないように、岩で作られた引き戸があるんだ」
 俺の様子が変わったことに気が付いたのか、少し気が抜けた声でカガリは答えた。
「さらに沼に突き飛ばした、と」
「ここの沼、藻のせいかヌメヌメしているんだよな。落ちてもあんまり音がしないから、逃げるのに使うのは最適で……お前、どうしたんだ?」
「…………んで」
「は?」
「何で俺がこんな目に会わなければならないんだ!」
 溜め込んでいた不満が吹き出てきた。そうだ!結婚が嫌ならあの弟に手伝ってもらえばいいんだ!俺がこの島にラクス様と楽しいクリスマス会をするためだ!激しい山登りをするためでも(そのおかげで、このレリーフや祠を見ることはできたが)、上から激突されたり沼に落とされたり追っ手から隠れたりしなければならないんだ!しかも、これから脱出を手伝えだと!俺の、俺とラクス様のクリスマスを邪魔するのか!
「一人でやれ!一人で!」
 俺は崖伝いに先ほど登ってきた道を探すことに決め歩きだした。こんな奴、一人で勝手にしろ!と、苛立ちながら上を見上げる。ちょうど視界に先ほどの祠が目に入る。レリーフや祠はすばらしかった。だが、その後が最悪だ。あの気持ちが台無しだ。俺は腹立ちまぎれに、崖をなぐる。
  
突然、崖に穴が空いた。いや、正確には岩戸が隠し戸のように反転した。
「うわ……」
イザーク!?」
 カガリが駆け寄ってくるのが見える。それと同時に戸がしまった。
 その瞬間、俺の目に入ったのは、さきほど祠で見た、あの紋章だった。