SEED SAGA LINKAGE PHASE-01-12

  
  
 キラやラクス様が、子供達を寝かす為に子供部屋へ入っていったとき、カガリは俺に外へ出ようと誘い出した。
 出入り口には、オーブ兵が立っている。どうやらカガリが脱走しないように見張っているらしい。ついてこようとする彼を、そこへ行くだけだ、と言いながら追い払い、俺達は波打ち際まで歩いていった。
 波が足にかからない、ギリギリの場所で立ち止まったカガリは振り返り、その後ろで立ち止まった俺を見た。
「ゴメンな。パーティ、楽しめなかっただろう?」
 苦笑しながら、すまなさそうな瞳で見つめられた。
「いや、楽しかった。こういうパーティは初めてだったからな」
「でも、今日のこと、気になってるって顔だぞ」
 俺は溜息をついた。こうも簡単に感情を表に出すのは俺の悪い癖だ。
 そう、気になっている。今日の地下でのカガリの様子といい、先ほどのマルキオ導師との会話といい、そして明日のパーティといい、気になることだらけだ。だが、それを口に出すことはためらわれた。何か、とてつもなく重要なことのような気がしたからだ。俺はディアッカよりもオーブとは縁が無い。それどころかカガリともほとんど会ったことが無かった。そんな俺が、しかも未だザフトに席を置く俺が、彼女の親しい人たちを差し置いて聞いていいことなのか分からなかった。
 だが、それでも気になるものはなる。パーティの間もそれが頭からはなれず、どこか上の空になってしまったのは事実だ。
「俺が、聞いてもいいことか?」
 するとカガリは少々困った表情を浮かべてこういった。
「駄目だ」
 くるりと後ろを向き、サンダルを脱ぐ。
「聞かせたら、すごい迷惑をかけるからな」
 そして、左手でスカートを持ち上げながら、くるぶしくらいまで波の中に入っていく。そこで立ち止まり、顔をこちらに向けながらニコリと笑う。
「でも一つだけ教えてやる。今日の私の共犯者だ」
 カガリは右手を左の袖につっこんだ。そこから一本の短い棒のようなものを取り出し、口にあてる。
 ピイィィィ。
 かなり高く、聞き取りずらい音が辺りを響く。遠い場所から、パシャ、という音が何度が響き、波うちから三角形が一つ見える。それは少し離れた場所まで近づいてきた。
 ピピィ。
 もう一度音が響く。すると、それは音を立てながら、波の上に飛び跳ねた。
 美しい灰色の流線。滑らかそうな肌。愛くるしい瞳。
 それは、図鑑でしか見たことの無い生物、イルカだった。
「紹介するぞ。ペットのピートだ」
 俺は靴が濡れるのもかまわず、カガリ
 イルカのピートは、キュキュキュと鳴いていた。図鑑でしかみたことがなかったそれは、遠目でも可愛いのが分かった。
「今日はアイツに手伝ってもらうつもりだったんだけどなぁ」
「無茶苦茶だ!動物にどうしてもらうつもりだ!」
「それは秘密だ」
 ニヤリと笑うカガリを見て、俺は頭を抱えたくなった。あんなに愛くるしいイルカにどんな仕打ちをするつもりだったのか。そもそもイルカに何ができるというのか。動物愛護協会も真っ青だな。そんな俺の顔を見てニヤニヤしていたカガリは、しばらくして、真面目な表情になった。
イザーク、色々とありがとうな。服とか……肩とか」
「ふん。気にするくらいなら初めから巻き込むな」
 俺がわざと怒った声でいうと、カガリは苦笑した。
「結局捕まったけれど、クリスマスパーティに参加できてよかった」
 もしかしたら、ドタキャンして後でキラ達に恨まれてたかもしれないからな、と呟く。
「明日のことはどうするんだ」
 俺が聞くと、少し困った顔をした後、沖のほうをじっと見つめた。
「どうしなければいけないか、ということが分かったから、それを実行する」
「もしかして、結婚するのか!?」
 俺が驚いて声を上げると、カガリはきょとんとした表情で俺を見つめ、何秒か経った後にクスクスと笑い出した。
「しないよ。今後の方針が決まったら、それに基づいて行動するってだけだよ」
 それを聞いた俺はホッとした。もしこのまま結婚などされてみろ、俺がアスランに呪い殺される羽目になる。ん?アスランといえば、俺は何かを忘れていないか?
「だから明日は、安心してパーティに出てくれてかまわないぞ。迷惑はかけないから」
 カガリは俺の肩をポンと叩いた後、再び銀の棒を口にあてた。
 ピピピピィ。
 また音が響く。すると、ピートはキュウゥーーと鳴いた後、先ほどよりも高く飛び上がり、一瞬、月の影へと変わる。それを何度か繰り返したピートは、沖へと消えていった。
 それは幻想的な光景だった。アスランのことなど頭から離れてしまうくらい。しばらくして、カガリが再び俺の肩を叩いた。
「じゃ、お休み」
 そういうと、陸へと上がり、サンダルの側と歩いていく。
「お、おい。待て。女が夜に一人で歩くな!」
 俺はそれを追いかると、カガリは面倒くさそうな表情をしながらサンダルを履いていた。
  
 結局、アスランの頼みを思い出したのは、家に帰って『先ほどまで倒れていたくせに』とキラとラクス様に怒られた後、寝る為に自分の部屋に入った時だった。
  
  
[to be continue...]